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親が一人で暮らしていた古い実家を相続し、空き家のまま売った。「相続した空き家なら譲渡所得から3,000万円まで控除できる」と聞いて、市区町村の窓口で確認書をもらうところまでは進めたものの、そこから先の税務署に何をどう出せばいいのかで手が止まっている。そんな場面を想定して、税務署に提出する側の手続きに絞って整理します。
先に結論を置きます。相続した空き家の3,000万円特別控除(正式には「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)は、確定申告をして初めて受けられる「申告要件」の特例です。税務署に出す中心の書類は「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」と「確定申告書 第三表(分離課税用)」の2つで、これに市区町村が発行する確認書などを添えます。提出時期は、売った年の翌年2月16日から3月15日までです。以下、この2様式の書き方と工程表を、計算例で追っていきます。
3,000万円の控除は確定申告をしないと受けられない

この特例は、要件を満たしていても自動では適用されません。国税庁の案内でも、適用を受けるには確定申告が必要で、市区町村長が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」などを申告書に添付することとされています(国税庁 No.3306)。つまり、税額が控除で0円になる場合でも、申告そのものを省くと控除は使えず、本来かからないはずの税金が課される結果になり得ます。
なぜ申告が要件なのかを、数字でつかんでおくと動きやすくなります。仮に古い実家を相続後2年で3,000万円で売り、取得費が分からず概算取得費(売った金額の5%=150万円。国税庁 No.3258)を使い、譲渡費用が約105万円だったとします。譲渡所得は3,000万円−150万円−105万円で約2,745万円です。3,000万円控除を適用すれば課税される譲渡所得は0円になりますが、申告しなければこの約2,745万円に長期譲渡所得の税率がかかります。長期(売った年の1月1日で所有期間5年超)の税率は所得税15%・住民税5%、これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります(国税庁 No.3208)。控除を使うか使わないかで、負担が丸ごと入れ替わるわけです。
税務署に出す必要書類|譲渡所得の内訳書と確定申告書第三表
不動産の売却益は、給与などと分けて計算する「分離課税」で申告します。そのため通常の申告書(第一表・第二表)に加えて、次の2つが要になります。
譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
売った物件ごとに、収入金額(売却代金)・取得費・譲渡費用を書き出し、譲渡所得を計算する明細書です。譲渡所得は「売った金額−取得費−譲渡費用(−特別控除)」で求めます(国税庁 No.3202)。取得費が不明なら概算取得費(売却代金の5%)を使い、譲渡費用には売却時の仲介手数料や測量費などを入れます。この内訳書の中で3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)の特別控除を差し引き、課税される譲渡所得を確定させます。
確定申告書 第三表(分離課税用)
内訳書で計算した譲渡所得を、税額計算に落とし込む様式です。長期・短期の区分や特別控除の適用を記載し、税額を算出します。第三表で出した税額が、第一表の税額欄へ連動します。書く順番は「内訳書で所得を固める → 第三表で税額にする → 第一表・第二表にまとめる」と覚えると迷いにくくなります。
市区町村の確認書など添付書類
税務署に出す2様式のほかに、この特例では市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」の添付が求められます。これは税務署ではなく、物件がある市区町村の窓口で申請して取得する書類で、取り方や添付のタイミングは別記事で扱っています。加えて、売買契約書の写しや登記事項証明書など、要件を満たすことを示す書類を添えます。家屋を取り壊して売った場合や耐震改修をした場合は、それを裏づける書類も準備します。
内訳書と第三表の書き方|計算例で追う

先ほどの前提で、内訳書に書く数字の流れを具体的に追います。
- 収入金額(売却代金): 3,000万円
- 取得費: 概算取得費として売却代金の5%=150万円(取得時の契約書がなく実額が不明なケース)
- 譲渡費用: 約105万円(例。売却代金3,000万円のときの仲介手数料の上限は、200万円以下の部分5.5%+200万円超400万円以下の部分4.4%+400万円超の部分3.3%で区分計算すると税込105.6万円。国土交通省告示)
- 特別控除: 3,000万円
これを内訳書の計算に当てはめると、譲渡所得=3,000万円−150万円−105万円=約2,745万円。ここから特別控除3,000万円を差し引くと、控除しきれてマイナスになるため課税される譲渡所得は0円です。第三表には、この長期譲渡所得と特別控除の適用を記載し、税額0円として第一表へつなぎます。相続人が3人以上の場合、令和6年1月1日以後の譲渡では控除の上限が2,000万円になる点に注意してください(国税庁 No.3306)。上限が2,000万円だと、同じ前提でも課税される譲渡所得が約745万円残り、税額が発生します。
この計算例は前提を置いた試算です。実際の取得費・譲渡費用や適用の可否は、契約書や登記の内容で変わります。売り方(仲介か買取か)で手取りや譲渡費用も変わるため、売却の段取りは空き家 売却の進め方の記事もあわせて確認してください。
提出時期と相続からの工程表
提出時期は、物件を売った年の翌年2月16日から3月15日までです。逆算すると、売却そのものにも期限があるため、相続時点から次の順で動くと間に合わせやすくなります。
- 相続開始。相続登記を行い、名義を相続人に移す
- 家屋の状態を決める。家屋を売る場合は一定の耐震基準を満たすか、取り壊して更地にする。令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の時から譲渡した年の翌年2月15日までに耐震基準を満たすか、家屋の全部を取り壊せば要件を満たせます(国税庁 No.3306)
- 市区町村へ「被相続人居住用家屋等確認書」を申請する(税務署ではなく市区町村側の手続き)
- 売却する。期限は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ売却代金は1億円以下(国税庁 No.3306)
- 売った翌年に、譲渡所得の内訳書と確定申告書第三表を作成する
- 翌年2月16日から3月15日までに確定申告書を提出する
この特例が使えるのは、被相続人居住用家屋・敷地を平成28年4月1日から令和9年12月31日までに売った場合です。売却の期限(相続から3年を経過する日の属する年の12月31日)を逃すと、他の要件を満たしても特例は使えません。売却先が決まらず期限が迫っているなら、買取という選択肢も検討の余地があります。
取得費加算とどちらを選ぶか(併用不可)

相続した不動産を売るときに使える特例には、この3,000万円控除のほかに「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算)」があります。両方の要件に当てはまる場合でも、この2つは併用できず、どちらか一方を選びます(国税庁 No.3306・No.3267)。相続税を納めた人で、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売る場合は取得費加算も検討対象になりますが、多くの空き家では控除額の大きい3,000万円控除が有利になりやすい傾向です。前提を比べたうえで、税額が小さくなる方を選びます。
| 項目 | 空き家の3,000万円特別控除 | 取得費加算の特例 |
|---|---|---|
| 効果 | 譲渡所得から最高3,000万円(相続人3人以上は2,000万円)を控除 | 納めた相続税額の一部を取得費に加算 |
| 主な要件 | 昭和56年5月31日以前の建築・区分所有建物でない・相続直前に被相続人以外の居住者がいない・耐震基準を満たすか取り壊す 等 | 相続税を納めた人であること |
| 期限 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却(代金1億円以下) | 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡 |
| 手続き | 確定申告+市区町村の確認書などを添付 | 確定申告で相続税額を按分して加算 |
| 併用 | 両者は選択。同時には使えない | |
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いずれも確定申告が前提です。どちらを選ぶかで書き込む内訳書の内容が変わるため、売却前に方針を決めておくと申告時に迷いません。
よくある質問
税額が0円でも確定申告は必要ですか。
必要です。この特例は確定申告をすることが適用の要件で、申告して初めて控除が受けられます。控除の結果として税額が0円になる場合でも、申告を省くと控除自体が使えません。
税務署に出すのは何ですか。市区町村の確認書とは別ですか。
別です。税務署に出す中心は「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」と「確定申告書 第三表(分離課税用)」で、確定申告書一式に含めて提出します。市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」は、これに添付する書類の一つで、取得先は市区町村の窓口です。
取得時の契約書がなく取得費が分かりません。
取得費が不明なときは、売った金額の5%相当額を概算取得費として使えます(国税庁 No.3258)。例えば3,000万円で売れば150万円です。実額の方が大きい場合は、資料をそろえて実額で計算します。
提出はいつからいつまでですか。
物件を売った年の翌年2月16日から3月15日までが原則です。売却自体にも「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限があるため、売る時期と申告時期の両方を意識して段取りする必要があります。
相続人が複数いる場合、控除額はどうなりますか。
令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈で取得した相続人が3人以上の場合、控除の上限は一人あたり2,000万円になります(それ以外は3,000万円)。持分ごとの適用条件は別記事で扱っています。
家屋を取り壊してから売っても控除は使えますか。
使える場合があります。令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の時から譲渡した年の翌年2月15日までに家屋の全部を取り壊すか、耐震基準を満たせば要件を満たせます(国税庁 No.3306)。取り壊しを裏づける書類を申告時に添えます。
参考・出典
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(総合譲渡・分離譲渡) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき(概算取得費) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国土交通省 宅地建物取引業者が受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号 最終改正 令和6年国土交通省告示第949号) https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750143.pdf

