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相続した実家を「売るのはもったいない、貸せば毎月家賃が入る」と考えて、水回りだけ直して賃貸に出したものの、半年たっても内見の連絡すら来ない――そんな相談は少なくありません。改修に使ったお金は戻らず、その間も固定資産税と管理の手間だけがかかり続けます。空き家の活用は、うまくいけば持ち出しを収入に変えられる一方で、途中で詰まると「売っておけばよかった」に行き着きやすい選択でもあります。
賃貸に出すか売るかは、雰囲気ではなく3つの数字で先に決めるのが失敗を避ける近道です。すなわち、初期改修費を何年で回収できるか、退去時の原状回復の負担を契約で切り分けられるか、現地に無理なく通える距離かの3点です。この記事では、空き家を賃貸に出して実際に詰まりやすい場面を失敗例に絞って分解し、それでも回らないと分かったときに売却へ戻す判断のしかたまで整理します。活用方法そのものの収支比較は別記事に譲り、ここでは「うまくいかない側」だけを扱います。
空き家活用のメリットとデメリットを先に並べる

賃貸活用のメリットは分かりやすく、家賃という継続収入が入ること、建物に人が入ることで傷みや不審者の侵入を抑えられること、更地にせず建物を残せることです。一方でデメリットは見落とされがちです。入居が付くまで収入はゼロなのに改修費と維持費は先に出ていくこと、退去のたびに原状回復と再募集の費用がかかること、そして遠方だと日常の管理を人に頼らざるを得ないことです。
売却が「一度きりで関係が切れる」のに対し、賃貸は「貸している間ずっと大家の責任が続く」点が最大の違いです。空き家を貸すときの仲介手数料にも注意が要ります。長期間使われていない住宅を貸す場合、宅地建物取引業者が貸主・借主双方から受け取れる報酬の合計は借賃1か月分の2.2倍まで認められており(長期の空家等の貸借の特例/2024年7月施行)、通常の貸借より募集コストが上がる場合があります。メリットだけを見て走り出すと、以下の3つのどこかで止まります。
失敗例1|初期改修を回収する前に入居が付かない
いちばん多い詰まり方が、直したのに借り手が付かず、改修費を回収できないパターンです。長く空いていた家は、雨漏り・給湯器・シロアリ・水回りなど「貸せる状態」にするための改修が先に必要になり、ここでまとまったお金が出ます。ところが立地や間取りが現在の需要に合っていないと、直しても内見が入りません。
数字で見ると分かりやすいので、あくまで仮定として計算例を置きます(下の金額は説明のための仮の数字で、実際の家賃や改修費・利回りを保証するものではありません)。
| 項目(すべて仮定) | 金額・条件 |
|---|---|
| 賃貸に出すための初期改修費 | 150万円(仮定) |
| 想定家賃 | 月5万円(仮定) |
| 改修費の回収に必要な家賃収入 | 150万円 ÷ 5万円 = 30か月(空室ゼロでも2年半) |
| 差し引かれる主な費用 | 固定資産税・都市計画税、火災保険、管理費(実額は下記)、退去時の原状回復・再募集費 |
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賃貸で改修費を回収できない、退去のたびにもめる、遠方で管理できないといった詰まりが自分に当てはまるなら、その場でわかる査定額で売却の手取りと比べる方法があります。
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この例では、空室が一度も出ない前提でも改修費の回収に2年半かかります。実際には募集期間の空室や退去後の入れ替え期間があり、そのぶん回収は後ろにずれます。「家賃が入る」ことだけを見て、回収にかかる年数と、その間の維持費を差し引いた手残りを計算していないと、貸しているのに持ち出しが増える状態になりかねません。改修に踏み切る前に、直したあとの想定家賃で改修費を何年で回収できるかを一度書き出すことが、この失敗を避ける最初の関門です。
失敗例2|退去時の原状回復でもめる

入居が付いても、次に待っているのが退去時の原状回復(借主が住む前の状態に戻す作業)をめぐるトラブルです。空き家を貸すときは「借主の希望で自由に手を入れてよい代わりに、退去時にどこまで戻すか」を事前に決めていないと、退去のたびに費用負担で対立します。
ここで使えるのが、国土交通省が示しているDIY型賃貸借(借主の意向を反映して住宅の改修ができる契約や物件)の考え方です。国交省は契約書式例やガイドブック、家主向けの手引きを公表しており、そこでは改修できる範囲と退去時に原状回復が必要かどうかを契約であらかじめ取り決めることが要点とされています(2026年9月時点・国交省公式資料で確認)。格安で貸す代わりに借主に手を入れてもらう場合ほど、「どこまで借主のものとし、退去時に戻さなくてよいか」を書面で切り分けておかないと、後から「これは大家負担だ」「いや借主だ」の水掛け論になります。
原状回復の線引きを口約束で済ませると、退去のたびに想定外の出費が発生し、失敗例1の回収計画が狂います。契約書式の型は公開されているので、活用する前に改修範囲と原状回復のルールを文書化しておくことが、この詰まりを避ける現実的な手当てです。
失敗例3|遠方で管理できず費用と保険で詰まる
3つ目は、物件が遠方にあって自分で管理できないケースです。賃貸は貸したら終わりではなく、設備の故障対応、共用部や庭の管理、退去後の点検など、大家として現地に関わり続ける必要があります。通えない距離だと管理を業者に委託することになり、その費用が手残りをさらに削ります。
管理代行の料金は会社によって幅があります。公式に公表されている料金の例を挙げると、次のとおりです(いずれも税込・2026年9月時点で公式サイト確認。「全国相場」ではなく各社の公式料金の実例です)。
| サービス(公式表記) | 月額 | 屋内作業・エリアの注意 |
|---|---|---|
| 空家・空地管理センター スタンダード(戸建) | 月額2,750円 | 屋内作業なし(換気・通水なし) |
| 空家・空地管理センター プラス(戸建) | 月額6,600円 | 屋内作業あり(換気・通水を含む) |
| ダスキン 定期巡回 | 月額4,400円 | 兵庫・大阪・奈良・神奈川限定(対応エリアが限られる) |
屋内の換気・通水まで頼むと月6,600円ほどかかり、年間で8万円近くになります。エリアが限定されるサービスもあるため、遠方の物件では「頼みたい作業を、その地域で頼めるか」まで確認が要ります。
さらに見落としがちなのが火災保険です。人が常時居住していない建物は、多くの住宅用火災保険で引受の対象外とされています(日新火災・三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保の公式FAQで確認・2026年9月時点)。入居者がいる間は住居として扱われても、退去して次の入居までの空室期間は空き家の状態になり、その間の補償をどうするかが問題になります。空き家向けの引受は商品や会社ごとに扱いが異なるため、賃貸に出す前に代理店へ確認しておかないと、いざというときに無保険の期間が生まれます。
なお、賃貸ではなく民泊で活用する道もありますが、住宅宿泊事業法では年間提供日数の上限が180日と定められており、こちらも「常に埋まって稼げる」ものではありません。遠方での管理負担は民泊のほうがむしろ重くなる点にも注意が必要です。
賃貸で詰まったら売却へ戻す判断

3つの失敗例に共通するのは、「収入が入る前に、回収年数・退去時負担・管理費という持ち出しが先に確定してしまう」ことです。改修費を回収する前に入居が付かない、退去のたびに原状回復でもめる、遠方で管理費と保険が積み上がる――このいずれかが自分の物件に当てはまるなら、貸し続けるより売却で手放したほうが、負担を早く止められる場合があります。
判断の順番はシンプルです。第一に、直したあとの想定家賃で改修費を回収できる年数を出す。第二に、その間の管理費・固定資産税・保険を引いた手残りを見る。第三に、現地に通えるか、通えないなら委託費を払っても回るかを見る。ここで手残りがほとんど残らない、あるいは持ち出しになるなら、活用にこだわらず売却を検討する段階です。空き家を売る具体的な進め方――仲介と買取で手取りと期間がどう変わるかは、空き家 売却の進め方で手順に沿って確認できます。
よくある質問
空き家は貸すのと売るのどちらが得ですか
物件によります。立地に賃貸需要があり、改修費を数年で回収できて現地に通えるなら賃貸が向きます。回収に長くかかる、退去時負担が読めない、遠方で管理を委託するしかない場合は、持ち出しが続くため売却のほうが負担を早く止められることが多いです。まず改修費の回収年数と手残りを計算してから決めてください。
賃貸に出すと固定資産税は下がりますか
住宅として使われている土地には住宅用地の特例が適用されますが、貸すこと自体で税額が下がるわけではありません。逆に、管理が行き届かず管理不全空家や特定空家として勧告を受けると、勧告を受けた状態で1月1日を迎えた年度から住宅用地特例が外れます(地方税法・空家法/2026年9月時点)。貸すなら適切な管理を続けることが前提です。
退去時の原状回復でもめないためにはどうすればいいですか
改修できる範囲と、退去時に原状回復が必要かどうかを契約であらかじめ決めておくことです。国土交通省がDIY型賃貸借の契約書式例や手引きを公表しているので、その型に沿って書面化しておくと、退去のたびの費用負担の対立を避けやすくなります。
遠方の空き家を貸すときの管理費の目安は
公式に公表されている料金の例では、屋外中心の月1回巡回で月額2,750円から4,400円(税込)、屋内の換気・通水まで含めると月額6,600円(税込)ほどです。対応エリアが限られるサービスもあるため、その地域で頼めるかを確認してください。全国一律の相場を示す公的統計はありません。
入居者がいない期間の火災保険はどうなりますか
人が常時居住していない建物は、多くの住宅用火災保険で引受の対象外とされています。退去から次の入居までの空室期間は空き家扱いになりうるため、空き家向けの引受可否や条件を賃貸に出す前に代理店へ確認しておくことをおすすめします。
賃貸で失敗したら途中で売却に切り替えられますか
切り替えられます。ただし入居中の物件は買い手が限られたり価格に影響したりすることがあるため、退去のタイミングや契約内容を踏まえて進め方を決めるのが現実的です。手取りと期間の違いは売却の進め方の記事で確認してください。
参考・出典
- 国土交通省「DIY型賃貸借に関する契約書式例・ガイドブック等」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000046.html
- 国土交通省「宅地建物取引業者が受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号、最終改正 令和6年国土交通省告示第949号) https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750143.pdf
- 観光庁 民泊制度ポータルサイト(住宅宿泊事業法・年間提供日数の上限180日) https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/
- 空家等対策の推進に関する特別措置法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127
- 地方税法(固定資産税・住宅用地特例・賦課期日/e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- NPO法人 空家・空地管理センター(管理サービス料金) https://www.akiya-akichi.or.jp/service/
- ダスキン 空き家関連サービス(定期巡回料金・対応エリア) https://www.duskin.jp/special/akiya/
- 日新火災 よくあるご質問(空家の定義・引受可否) https://faq.nisshinfire.co.jp/faq/show/22580
- 三井住友海上 よくあるご質問(空家の取扱い) https://faq2.ms-ins.com/faq/show/1264
- あいおいニッセイ同和損保 よくあるご質問(空家の取扱い) https://adcc-faq.aioinissaydowa.co.jp/faq/show/215

