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「昨年の秋に、亡くなった父の田舎の家について家庭裁判所で相続放棄(プラスもマイナスも含め、相続人としての権利や義務を一切引き継がないための手続き)を済ませた。もう自分は関係ないはずなのに、春になって自分あてに空き家の固定資産税の納税通知書が届いた」。実際に寄せられる相談です。放棄したのに請求が来るのは、手続きのミスでも市町村の間違いでもありません。固定資産税が「誰に課されるか」の決まり方と、相続放棄が記録に反映される仕組みが、別々のルールで動いているために起こります。
結論から先に整理します。押さえるべきは三つです。第一に、固定資産税はその年の1月1日時点で市町村の帳簿に所有者として登録されている人へ、その年度分がまるごと課されます。第二に、相続放棄をしても、その帳簿の名義がひとりでに書き換わるわけではありません。第三に、民法が定める空き家の「管理義務」と、税金を納める「納税義務」はまったく別の話です。この三点を分けて考えると、届いた通知書にどう対応すべきかが見えてきます。
放棄したのに固定資産税の納税通知書が届く理由

相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その人ははじめから相続人ではなかったものとして扱われます。放棄した本人の感覚としては「もう自分のものではない」ので、税金の請求が来るのは筋が通らないように思えます。
ところが固定資産税を課す市町村の側は、「誰が法律上の相続人か」を毎回追いかけて課税しているわけではありません。市町村は固定資産課税台帳(固定資産の所有者や評価額を記録している帳簿)に登録された所有者に対して、機械的に納税通知書を送ります。台帳の名義が亡くなった方のままだったり、いったん相続人として把握された人のままだったりすると、放棄が済んでいても通知書はその名義あてに届きます。つまり、放棄という「相続人の側の事実」と、課税台帳という「市町村の記録」が、同じタイミングで自動的にそろうわけではないのです。
納税通知書が届いた事実そのものは、あなたの放棄が無効になったことを意味しません。放棄の効力と、台帳上の名義がどうなっているかは、切り離して確認する必要があります。
納税義務者はどう決まるか|1月1日の課税台帳が基準
固定資産税の納税義務者(税金を納める義務を負う人)は、その年の1月1日という基準日を境に決まります。この基準日は賦課期日(税額を計算するための基準となる日)と呼ばれ、この時点で固定資産課税台帳に所有者として登録されている人が、その年度1年分の納税義務を負います。年の途中で所有者が変わっても、その年度の納税義務者は1月1日時点の登録者のまま動きません。
この仕組みがあるため、「秋に放棄したのに、翌年の春に届く納税通知書は自分あてだった」という時間のずれが生まれます。放棄した時点が前年のうちでも、台帳の名義があなたのまま1月1日を迎えていれば、市町村はその名義に向けて課税手続きを進めるからです。まずは自分が台帳上どう記録されているかを、市町村の資産税を扱う窓口で確認するのが出発点になります。
相続放棄と課税台帳の更新は別々に動く

相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地の家庭裁判所へ行います。費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。この手続きは家庭裁判所で完結し、受理されれば法的には相続人でなくなります。
一方で、固定資産課税台帳や不動産の登記は、この放棄の受理と連動して自動で書き換わるものではありません。放棄が受理されたことを市町村が把握しても、その不動産を次に誰が引き継ぐか(他の相続人か、後述する清算人か)が確定するまでは、台帳の名義がすぐに新しい所有者へ切り替わらない場面があります。放棄が家庭裁判所という司法の手続きで進むのに対し、課税や登記は市町村・法務局という別の窓口で別のタイミングで動く、と理解しておくと混乱しません。
納税通知書が届いたら、放棄を受理したことがわかる書類(家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理通知書など)を手元に用意し、市町村の窓口に「自分は放棄済みで、台帳の名義がまだ自分になっている」と伝えて、記録の状況を確認してもらうのが現実的な進め方です。
管理義務と納税義務は別|土地の所有者は誰になるのか
「相続放棄すれば空き家に関する一切の責任から解放される」と考えられがちですが、税金の納税義務と、建物や土地の管理義務は、根拠となる法律が異なります。両者を混同すると、対応を誤ります。
管理義務については、2023年(令和5年)4月1日に施行された改正民法940条が基準です。条文は「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定めています。ポイントは「現に占有している」という条件です。改正前にあった「管理を継続しなければならない」という広い文言は削除され、放棄の時点でその財産を実際に占有していた人だけが、引き渡すまでの間の保存義務を負う形になりました。遠方に住み、その空き家を占有していなかった相続人には、この保存義務は生じません。
下の表は、税の納税義務と民法上の管理義務の違いを整理したものです。
| 比べる点 | 固定資産税の納税義務 | 管理義務(民法940条) |
|---|---|---|
| 誰が負うか | 賦課期日(1月1日)に課税台帳へ所有者として登録されている人 | 放棄の時に相続財産を現に占有していた放棄者 |
| いつまで続くか | 台帳の名義が新しい所有者へ更新されるまで、年度ごとに発生 | 相続人または相続財産の清算人へ引き渡すまで |
| 根拠 | 地方税法(賦課期日・納税義務者の規定) | 民法940条(令和5年4月1日施行) |
広告この記事の結論:ラクウル(相続不動産)
固定資産税の通知は課税台帳の更新タイミングで届く仕組みのため、放棄後の対応に迷ったら相続の手続きの窓口に相談する方法もあります。
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土地そのものの所有者が誰になるかは、また別の問題です。相続人全員が放棄すれば、その土地や建物を承継する相続人はいなくなります。この場合、家庭裁判所が選任する相続財産清算人(旧・相続財産管理人。放棄などで相続人がいない財産を管理・清算する人)が財産を管理し、最終的な帰属を整理していくことになります。放棄した本人は、占有していた財産をこの清算人へ引き渡した時点で、管理義務からも離れられます。
通知書が届いたときの対応(状況別の判断フロー)
手元に納税通知書が届いた段階で、次の順に自分の状況を当てはめると、やるべきことが絞れます。
- 相続放棄はすでに受理されているか。 まだ手続きしていない、または申述期間の3か月を過ぎていないかを確認します。放棄する意思があるなら、期限内に家庭裁判所へ申述するのが先です。
- 放棄済みなら、課税台帳の名義は誰になっているか。 市町村の資産税窓口に相続放棄申述受理通知書などを示し、台帳上の記録状況を確認します。名義が自分のままなら、放棄済みである事実を伝えて記録の扱いを相談します。
- その通知書は、放棄が受理される前の年度分か、後の年度分か。 賦課期日の関係で、放棄前に迎えた1月1日を基準とする年度分は、いったん自分あてに来ることがあります。窓口で対象年度と名義の関係を確認します。
- その空き家を現に占有していたか。 占有していた場合は、民法940条の保存義務が引き渡しまで残ります。清算人への引き渡しなど、義務を終える道筋も同時に相談します。
いずれの場合も、自己判断で通知書を放置したり、逆に慌てて納めてしまったりする前に、まず市町村の窓口に事実関係を確認することが安全です。放棄の効力や納税義務の有無は個別の事情で結論が変わるため、判断に迷うときは家庭裁判所や司法書士・弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
誰も相続しない空き家と土地の最終的な行き先

相続人が全員放棄すると、その空き家と土地は宙に浮いたように見えますが、いくつかの出口があります。占有していた人は清算人へ引き渡すことで管理義務から離れられますが、土地そのものは清算手続きの中で処分・帰属が決まっていきます。
放棄ではなく、いったん相続したうえで手放す道を選ぶ人もいます。たとえば相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日施行)は、審査手数料が土地一筆14,000円、負担金が原則として面積にかかわらず20万円です。ただし建物がある土地は却下要件とされているため、空き家は解体して更地にしないと申請できません。放棄すれば費用はかかりませんが、放棄は特定の財産だけを選んで手放すことはできず、預貯金など他の遺産もあわせて放棄することになる点に注意が必要です。
維持費や税負担を理由に手放したい場合、放棄や国庫帰属だけでなく、買取や仲介で売却する選択肢もあります。手取りと売却までの期間がどう変わるかは、空き家 売却の進め方|仲介と買取で手取りと期間はここが違うで費用の内訳とあわせて整理しています。再建築不可や残置物が残ったままの空き家でも買い取りの相談を受け付けている業者があり、更地にする前に一度査定を取ってみると、放棄・国庫帰属・売却のどれが現実的かを金額で比べられます。
よくある質問
相続放棄すれば固定資産税は払わなくてよくなりますか。
放棄が受理されれば、その後に確定していく年度分について納税義務者から外れていきます。ただし、放棄前に迎えた1月1日を基準とする年度分は、台帳の名義との関係でいったん自分あてに通知が届くことがあります。実際の扱いは市町村の窓口で確認してください。
放棄したのに納税通知書が届いたら、そのまま払わなければいけませんか。
すぐに納める前に、放棄が受理された事実と、課税台帳の名義がどうなっているかを市町村に確認するのが先です。放棄済みであることを示す書類を用意して相談すると、記録の状況と、その通知書が本当に自分の負担になるのかを整理してもらえます。
相続放棄の手続きはいつまでにすればよいですか。
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所へ申述します。費用は申述人1人につき収入印紙800円と郵便切手です。期限を過ぎると原則として放棄できなくなるため、早めの判断が必要です。
相続人が全員放棄したら、空き家と土地は誰のものになりますか。
承継する相続人がいなくなるため、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が財産を管理し、清算していきます。占有していた放棄者は、その財産を清算人へ引き渡した時点で、民法940条の保存義務からも離れられます。
空き家の管理義務は放棄すれば完全になくなりますか。
放棄の時にその空き家を現に占有していなかった人には、そもそも民法940条の保存義務は生じません。占有していた人は、相続人または清算人へ引き渡すまでの間だけ、自分の財産と同じ注意をもって保存する義務が残ります。
固定資産税が高いので手放したいのですが、放棄以外に方法はありますか。
相続したうえで売却する、または相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらう道があります。国庫帰属は建物があると申請できないため更地化が前提になり、審査手数料14,000円と原則20万円の負担金がかかります。更地にする前に、まずは買取や仲介の査定で金額を比べてみるのが現実的です。
参考・出典
- 民法 第940条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(相続放棄者の管理義務の見直し等)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00499.html
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 総務省「固定資産税・都市計画税」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_11.html
- 法務省「相続登記の申請の義務化」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

