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「親の家は相続人全員で放棄した。もう誰のものでもないのだから、放っておけば国が引き取ってくれるはず」。そう考えて数か月が過ぎたころ、市役所から空き家の管理についての連絡が届いて戸惑う、という相談は珍しくありません。相続放棄をした瞬間に空き家が国のものになるわけではなく、実際には家庭裁判所での手続きを一つ通さないと、その家は宙に浮いたまま残り続けます。
結論から言えば、相続人全員が放棄した空き家は自動で国有化されるのではなく、家庭裁判所が「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん=相続人がいない財産を管理・清算する人)」を選ぶ手続きを経て初めて処分されるという点を押さえてください。判断の分かれ目は、その手続きにかかる予納金(家庭裁判所に前もって納めるお金)を誰が負担して費用倒れにならないか、そして2023年の法改正で開いた「行政の側から動いてもらう道」を使えるか、の2つです。
相続人が全員放棄した空き家は「自動で国のもの」にはならない

相続放棄は、家庭裁判所への申述(もうしのべ=申し立て)で成立します。第一順位(子)が全員放棄すると、次は第二順位(親などの直系尊属)、それも放棄すると第三順位(兄弟姉妹)へと相続権が移り、その全員が放棄して初めて「相続人が誰もいない」状態になります。ここでよくある誤解が、放棄した瞬間に家が国庫(こっこ=国の財布)へ移るというイメージです。
実際には、相続人がいなくなった財産は「相続財産法人(そうぞくざいさんほうじん)」という一つのまとまりとして扱われ、そのままでは誰も動かせません。空き家を売ったり壊したり、最終的に国へ引き継いだりするには、家庭裁判所が管理と清算を任せる人を選ぶ必要があります。放置しても登記上の名義は亡くなった方のまま、固定資産税の通知や近隣からの苦情だけが関係者に届き続ける、という状態になりがちです。
なぜ自動化されないのか|相続財産法人と相続財産清算人(民法951条・952条)
相続人のいない財産の扱いは、民法951条・952条が定めています。相続人がいることが明らかでないとき、相続財産は法人(相続財産法人)となり、家庭裁判所が利害関係人などの請求によって相続財産清算人を選任します。この清算人が、家の管理、債権者への支払い、換価(お金に換えること)を進め、それでも残った財産を最終的に国庫へ引き継ぎます。
ここで注意したいのが呼び名の変更です。この手続きは令和5年(2023年)4月1日から見直され、従来の「相続財産管理人」が「相続財産清算人」へと改められ、選任から国庫帰属までの流れが整理されました。古い記事やテンプレートには旧称のまま書かれているものが残っているため、いま調べるときは新しい呼び名の情報を確認してください。清算人が選ばれ、家が売れるか国へ引き継がれるまでには、公告(こうこく=広く知らせる手続き)の期間もあり、月単位の時間がかかります。
相続財産清算人の選任申立て|申立先・費用と予納金という関門
清算人の選任は、利害関係人(債権者、特定遺贈を受けた人、次の順位で財産の受け皿になりうる人など)または検察官が、家庭裁判所へ申し立てます。申立てそのものにかかる収入印紙などの実費は大きくありません。問題は、選任と並行して家庭裁判所から求められることの多い予納金です。
予納金は、清算人が実際に業務を行う報酬や、管理・処分にかかる費用に充てるため、申立人があらかじめ納めるお金です。相続財産に十分な現金があれば財産から賄えますが、めぼしい財産が「売れるかどうかわからない空き家」だけの場合、まず申立人が立て替える形になります。予納金の額は家庭裁判所ごとに事案に応じて決められ、全国一律の公表額はありませんので、金額は申立てを検討する家庭裁判所で個別に確認する必要があります。ここで、本記事では確定した金額を示せない部分に印を残します。
費用倒れになりやすい理由|納めたお金が戻らない場面

相続放棄をしてまで手を引いた空き家に、さらに予納金を投じるのは本末転倒に感じられるかもしれません。実際、次のような場合は「費用倒れ(かけた費用に見合う回収ができない状態)」になりやすいと考えておく必要があります。
- 空き家が再建築不可や過疎地の物件で、清算人が売りに出しても買い手がつかない
- 建物の解体が必要で、その費用が売却見込み額を上回る
- 相続財産に現金がほとんどなく、予納金の相当部分が清算人の報酬・実費で消える
予納金は、清算業務の中で財産から回収できた分は精算されて戻ることもありますが、財産が乏しく回収できなければ戻りません。つまり「誰かが最初にお金を出さないと手続きが動かない」構造になっており、相続人全員が放棄した後にわざわざ申立人になって費用を負担する人は、現実にはなかなか現れません。この空白こそが、空き家が長期間そのまま残る大きな原因です。
2023年改正で開いた「行政から動く道」|市区町村長の選任請求
この行き詰まりに対して、2023年(令和5年)の空家等対策特別措置法の改正が一つの出口を用意しました。同改正は令和5年6月14日公布・令和5年12月13日施行で、柱の一つとして市区町村長に財産管理人(相続財産清算人を含む)の選任請求を認め、相続放棄された空き家等に対応できるようにした点が挙げられています。
これは、利害関係人が誰も動かない空き家について、周辺の生活環境の保全という公益の観点から、行政の側が家庭裁判所へ清算人選任を求められるようにした仕組みです。倒壊のおそれや衛生上の問題が深刻な空き家であれば、自治体が動く余地が広がったことになります。ただし、行政が必ず動くとは限らず、あくまで市区町村の判断です。放置すれば行政に任せられると当てにするのではなく、危険な状態を放置しないための制度が加わった、と理解するのが正確です。困っている空き家があるときは、まず自治体の空き家相談窓口に状況を伝えるのが現実的な第一歩になります。
放棄しても消えない「現に占有」の保存義務(民法940条)
もう一つ見落とされがちなのが、相続放棄をした後にも残る義務です。民法940条は令和5年4月1日から見直され、相続放棄をした者は、放棄の時にその財産を「現に占有しているとき」は、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同一の注意をもって保存しなければならないと定めています。
ポイントは「現に占有している」という条件です。改正前の「管理を継続しなければならない」という文言は削除され、実際にその家に住んでいた、あるいは鍵を持って出入りしていたなど、現実に占有している放棄者だけが、引き渡すまでの間の保存義務を負う形に整理されました。遠方に住み、その空き家を占有していない相続人には、この保存義務は及びません。誰が占有していたかによって、清算人が選ばれるまでの間に責任を問われる人が変わるということです。相続放棄後の管理責任の詳しい線引きは、別記事で「現に占有」の意味と期間を扱っています。
判断フロー|放棄する前に確かめる条件と結論

相続放棄は、いったん受理されると原則として撤回できません。空き家を手放したいときの選択は、放棄を決める前に次の順で考えると整理しやすくなります。
| 確かめる条件 | 結論・次の一手 |
|---|---|
| その空き家に値がつく見込みがある(更地にすれば売れる立地など) | 放棄せず、売却を先に検討。売れれば費用倒れの問題は起きない |
| 土地は残せるが建物が負担で、売れない | 解体して更地にしたうえで、相続土地国庫帰属制度(土地を国に引き取ってもらう制度)を検討。ただし建物がある土地は申請不可 |
| 売れる見込みがなく、現金もほぼ無い | 相続放棄を検討。放棄後も現に占有していれば保存義務が残る点、清算人選任には予納金がかかる点を織り込む |
| 放棄済みで、危険な空き家が放置されている | 自治体の空き家相談窓口へ。行政による清算人の選任請求(2023年改正)の対象になりうる |
広告この記事の結論:ラクウル(相続不動産)
相続財産清算人の選任には予納金がかかるなど手続きが複雑なため、進め方を相続の窓口に相談する方法もあります。
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値がつく見込みがあるなら、放棄より先に売却を検討したほうが手取りも管理負担も軽くなります。空き家の売り方は仲介と買取で手取りや期間が変わるため、まずは空き家 売却の進め方で全体像を確認してから、放棄が本当に必要かを判断してください。再建築不可や残置物ありといった売りにくい空き家でも、買取に対応する会社に査定だけ取ってみる価値はあります。
なお、相続放棄そのものは、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。実費は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手で、金額としては大きくありません。負担が重いのは放棄そのものより、その後に誰も引き取り手のいない空き家をどう清算するかの部分だ、という順序で捉えておくとよいでしょう。
よくある質問
相続人全員が放棄したら、空き家はいつ国のものになりますか。
放棄した時点では国のものにはなりません。家庭裁判所が相続財産清算人を選び、その清算人が管理・売却・債権者への支払いを済ませ、それでも残った財産を最終的に国庫へ引き継ぎます。公告の期間もあるため、選任から国庫帰属まで月単位の時間がかかります。
清算人の選任申立てには誰がお金を出すのですか。
申立人が予納金を納めるのが基本です。相続財産に十分な現金があれば財産から賄えますが、めぼしい財産が売れない空き家だけの場合は、申立人が立て替える形になります。回収できなかった分は戻らないため、費用倒れになりやすい点に注意が必要です。
相続財産管理人と相続財産清算人は違うものですか。
同じ役割を指しますが、令和5年(2023年)4月1日の改正で「相続財産管理人」という呼び名が「相続財産清算人」へ改められました。手続きの流れも整理されているため、いま調べるときは新しい呼び名の情報を確認してください。
放棄すれば空き家の管理からは完全に解放されますか。
放棄の時にその空き家を現に占有していた場合は、相続人または清算人へ引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務が残ります(民法940条)。遠方に住み占有していない相続人には、この義務は及びません。
放置しておけば、いずれ自治体が処理してくれますか。
2023年の空家法改正で、市区町村長が家庭裁判所へ財産管理人の選任を請求できるようになり、相続放棄された空き家にも対応できる道が開きました。ただし行政が必ず動くわけではなく判断は自治体次第です。危険な状態があるなら、まず自治体の空き家相談窓口へ伝えてください。
放棄する前に、ほかに手はありませんか。
その空き家や土地に値がつく見込みがあれば、放棄より先に売却を検討したほうが手取りも管理負担も軽くなります。売れない土地は、建物を解体して更地にしたうえで相続土地国庫帰属制度(土地を国に引き取ってもらう制度、審査手数料は土地一筆14,000円、負担金は原則20万円)を検討する道もあります。ただし建物がある土地はこの制度の申請ができません。
参考・出典
- 民法 第940条・第951条・第952条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(新制度の概要・ポイント)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00499.html
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年)概要」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001621960.pdf
- 国土交通省 改正空家法ページ https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000138.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html / 負担金 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html

