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相続した実家が、水回りは古いけれど雨漏りはしていない。そのまま貸したいけれど、リフォームに数百万円かけて回収できる見込みは立たない。かといって空き家のまま置いておくと、固定資産税と管理の手間だけが毎年出ていく。こうした「直す気力も予算もないが、貸せるものなら貸したい」という空き家に向く選択肢が、家主が直さず借主に改修を任せる「格安の貸し方」です。
結論から言えば、判断の軸は一つです。あなたが自分でどこまで直すかを先に決め、直さない部分は家賃を下げて借主に改修を委ねる。この線引きを契約前に文書で固めておけば、退去時の原状回復(借りたときの状態に戻すこと)でもめずに、少ない持ち出しで貸し出せます。以下では、国土交通省が用意している「DIY型賃貸借」の枠組みと、貸すときにかかる仲介手数料、そして貸すより売る方が有利な場合の見分け方まで整理します。
直してから貸すと回収しづらい理由

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万2千戸で、このうち賃貸用が49.3%(443万6千戸)を占めます。一方で、一戸建の空き家352万3千戸のうち、賃貸・売却用や別荘などを除いた「使う予定のないまま放置されている空き家」が80.9%(285万1千戸)にのぼります。つまり戸建の空き家の約8割は、貸しにも売りにも出されず眠っている状態です。
放置される大きな理由が、貸す前のリフォーム費です。古い戸建をきれいに直すには相応の費用がかかり(金額は構造や傷み具合で大きく変わるため本記事では断定しません)、格安家賃で貸すと投じた費用の回収に長い年数がかかります。回収前に借主が退去すれば、次の入居まで空室のまま費用だけが残ります。そこで発想を変え、家主は最小限の安全確保(雨漏り・電気・水道など生活に直結する部分)だけを負担し、内装や間取りの好みは借主に任せて家賃を下げる、というのが格安賃貸の基本設計です。
DIY型賃貸借とは|改修を借主に振る国交省の枠組み
DIY型賃貸借とは、国土交通省の定義で「借主(入居者)の意向を反映して住宅の改修を行うことができる賃貸借契約や賃貸物件」を指します。借主が自分の費用と好みで壁紙や床、設備を変えられる代わりに、家主は現状のまま貸し、その分だけ家賃を抑えるのが一般的な組み立てです。
国交省はこの契約を後押しするため、契約書式例とガイドブックを平成28年4月に、改定版の契約書式例と家主向けの手引きを平成30年3月に公表しています(2026年9月時点・国交省サイトで確認)。書式例では、改修できる範囲、改修部分の費用を誰が負担するか、退去時に元へ戻す必要があるか(原状回復の要否)をあらかじめ取り決める形になっています。口約束ではなく、この取り決めを契約書に落とすことが、後のトラブルを避ける肝です。
家主が「直さない」代わりに決めておくこと
現状のまま貸すといっても、まったく手をかけないわけではありません。人が安全に住める最低限の状態、たとえば給排水や電気が使える、屋根や外壁から雨水が入らない、といった生活の土台は家主側で確認しておく必要があります。ここを曖昧にすると、入居後に「住めない」と苦情や契約解除につながります。逆に、和室を洋室にしたい、キッチンを入れ替えたいといった好みの改修は借主に委ね、その工事の可否と原状回復の要否だけを先に決めておきます。
格安家賃はどう決めるか|相場からの逆算
格安で貸すときの家賃は、感覚で「安め」に置くのではなく、周辺の同じ広さ・築年数の賃貸相場をまず調べ、そこから「借主が負担する改修の分」を差し引く、という逆算で考えると根拠が持てます。借主が数十万円をかけて内装を直すのであれば、その投資に見合うよう家賃を相場より下げる、という発想です。
周辺相場は、賃貸情報サイトで同条件の募集家賃を数件見比べれば目安がつかめます。ここで注意したいのは、空室が長引く損失です。相場より少し高く設定して半年空室が続くより、思い切って下げて早く埋めた方が、年間の手取りは大きくなることが少なくありません。数字は物件ごとに異なるため、募集する広さの募集家賃を実際に集めてから判断してください。
貸すときの仲介手数料は「1か月分」まで
賃貸を不動産会社に仲介してもらうと仲介手数料がかかりますが、その上限は国の告示で決まっています。通常の貸借の媒介では、貸主・借主の双方から受け取る報酬の合計が、家賃1か月分の1.1倍(税込)以内です(居住用は原則、一方から0.55倍以内)。
空き家を貸す場合には特例があります。長期にわたって使われていない「長期の空家等」の貸借では、借主から受ける額が家賃1か月分の1.1倍以内であることなどの条件のもとで、双方あわせて家賃1か月分の2.2倍まで受け取れます(2026年9月時点・国交省の報酬告示。令和6年7月1日施行)。遠方の空き家を掘り起こして貸す手間を評価した特例で、家主が負担を求められることもあります。
| ケース | 双方合計の上限(税込) | 例:家賃6万円のとき |
|---|---|---|
| 通常の貸借の媒介 | 家賃1か月分の1.1倍 | 最大 6万6千円 |
| 長期の空家等の貸借の特例 | 家賃1か月分の2.2倍 | 最大 13万2千円 |
上の「例」は家賃6万円と仮定した場合の計算で、告示の倍率を当てはめたものです。実際の手数料は媒介契約を結ぶ前に不動産会社が上限の範囲内で提示し、合意します。格安で貸すほど家賃が下がる分、手数料の絶対額も小さくなります。
契約前に決める3点|条件と結論
DIY型で格安に貸すなら、次の3点を契約書に明記しておくと、退去時のもめごとの大半を防げます。判断の分かれ道を条件と結論の形で整理します。
| 決める項目 | 条件 | 取り決めの結論 |
|---|---|---|
| 改修できる範囲 | 構造・防水・共用に関わらない内装中心か | 可能な工事の種類を列挙し、それ以外は家主の事前承諾を要する |
| 原状回復の要否 | 借主の改修を資産価値の向上とみなすか | 戻さなくてよい部分と、戻す部分を分けて明記する |
| 設備の修繕負担 | 給排水・給湯など生活の土台の故障か | 土台部分は家主、借主が加えた設備は借主、と切り分ける |
とくに原状回復は認識のずれが起きやすい部分です。借主が費用をかけて直した内装を、退去時に「元に戻せ」とすると借主の負担が重くなり、そもそも入居が集まりません。格安で貸す前提なら、「借主が加えた改修は原則そのままでよい」と決めておく方が、双方にとって分かりやすくなります。
貸す前に「売る」と比べる

格安で貸せば毎月の家賃は入りますが、家主である限り管理の責任と固定資産税は続きます。空き家を手放して現金化した方が、長い目で手取りが良いケースもあります。とくに、相続した空き家を売るときの「3,000万円特別控除」(一定の要件で譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける制度)は、相続の時から売る時まで貸付けの用に供したことがないことが要件です(国税庁 No.3306)。つまり一度でも賃貸に出すと、この控除は使えなくなります。貸すか売るかは、この税の分かれ目も含めて比べる必要があります。
売却と賃貸のどちらが手取りで有利かは、物件の立地と傷み具合で変わります。まず今の相場を把握するため、複数の不動産会社にまとめて査定を依頼して価格の幅を見てから、貸すか売るかを決めると判断を誤りにくくなります。売却ルートごとの手取りと期間の違いは、空き家 売却の進め方|仲介と買取で手取りと期間はここが違うで詳しくまとめています。
広告この記事の結論:ラクウル(空き家買取)
格安で貸すより、まず今の相場を把握してから貸すか売るかを決めるほうが判断を誤りにくいと本文にあります。
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よくある質問
DIY型賃貸借にすると家主は改修費を負担しなくてよいのですか
内装や間取りなど借主の好みに関わる改修は借主の費用で行うのが一般的です。ただし、雨漏りや給排水など人が住むための土台部分は家主が確認・負担するのが通常で、まったく手をかけないわけではありません。範囲は契約書で切り分けておきます。
借主がDIYした部分は退去時に元へ戻してもらえますか
原状回復の要否は契約で自由に取り決められます。格安で貸す前提なら「借主が加えた改修はそのままでよい」とする例が多く、戻す部分と戻さない部分を国交省の書式例に沿って事前に分けておくと、退去時にもめにくくなります。
空き家を貸すときの仲介手数料の上限はいくらですか
通常の貸借では貸主・借主の双方合計で家賃1か月分の1.1倍(税込)まで、長期にわたり使われていない空き家の特例では一定条件のもとで2.2倍までです(2026年9月時点・国交省の報酬告示)。実額は媒介契約前に不動産会社が提示します。
格安でも貸すと空き家の3,000万円控除は使えなくなりますか
相続した空き家の3,000万円特別控除は、相続の時から売る時まで貸付けの用に供したことがないことが要件です(国税庁 No.3306)。したがって一度賃貸に出すと、この控除は使えなくなります。売却も視野にあるなら、貸す前に税理士や税務署へ確認してください。
民泊にした方が儲かりますか
民泊(住宅宿泊事業)は都道府県知事等への届出制で、年間提供日数の上限は180日です。稼働の見込みや管理の手間は物件の立地で大きく変わるため、賃貸と一概に比較はできません。長期の入居を望むなら格安の賃貸、観光地なら民泊、と立地で切り分けて検討します。
貸すのと売るのはどう決めればよいですか
毎月の家賃と、管理・税の継続負担を天秤にかけます。傷みが進んで貸すのに費用がかさむ物件や、税の控除を使って売った方が手取りが大きい物件は、売却が向くこともあります。まず複数社の査定で価格の幅を把握してから判断すると、後悔しにくくなります。
参考・出典
- 国土交通省「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブック」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000046.html
- 国土交通省「宅地建物取引業者が受けることができる報酬の額」(告示第1552号、最終改正 令和6年国交省告示第949号) https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750143.pdf
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果 概要」 https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf
- 観光庁「民泊制度ポータルサイト」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/

